
「オーナー商法」という言葉を知っていますか?
正式には販売預託商法と呼ばれるもので、大規模な詐欺事件がいくつも発覚しています。
この詐欺商法による過去35年間の総被害額は1兆円以上ともいわれています。
2022年6月、法改正により販売預託商法は原則禁止となりました。
この記事では販売預託商法の過去の事例や手口、法改正の要点などを解説します。
そもそもオーナー商法(販売預託商法)ってなに?
オーナー商法(販売預託商法)とは、業者が顧客に販売した商品や権利をそのまま業者が預かった事にして、運用したりレンタルするなどして利益が出たと偽り、顧客に定期的な配当を行う取引です。
本当にこのような好循環で事業が行われていれば問題はありませんが、実態は違っていました。
顧客に販売したはずの商品や権利に実体がなく、よって運用などされずに販売金から配当に回す自転車操業を繰り返して破綻する事になります。
当然、長期間継続できるはずもありません。
過去に何度もこうした事業を行う詐欺業者が現れていましたが野放しとなってきました。
今般の改正により、今後これらの販売預託商法を業として行うことを原則禁止し、例外的に認めるケースとして、顧客との契約の前と契約時の二度、消費者庁の審査を義務付ける内容に改めました。
これまで発生した同種の有名な詐欺事件をご紹介します。
多くの高齢者を対象にした悪質な詐欺事件でペーパー商法による有名な詐欺事件。「将来値上がりする」と顧客に金(金地金)の購入代金を支払わせて、預かり証を顧客に発行する事で現物を調達することなく取引が完了したように見せかけました。テレビCMや老人を狙った電話勧誘により、全国で数万人規模の被害者がいたといわれ、その被害額は約2,000億円ともいわれています。ちなみに「豊田」と名前がついていますが、自動車メーカーの「トヨタ自動車グループ」とは全くの無関係であり、トヨタを騙ることでグループ会社かの様に見せかける為のネーミングだったそうです。
いわゆる養殖詐欺による有名な事件。「フィリピンに持つエビ養殖場に投資すれば1年で倍になる」とうたい勧誘していました。被害は全国の約3万5000人から約850億円規模。事業実態はなく、集めた金を配当に回すという自転車操業を繰り返し、加入者が先細ったことで配当が滞り破綻しました。
顧客は繁殖用の母牛を購入し、生まれた仔牛を肥育して毎年市場に出荷すれば大きなリターンが望めるとして出資者を募集しました。業者は母牛を購入する代金を預かり、買い付けを行ったように見せかける為、母牛の登録証を発行し出資者に配当金を渡していました。紙のみで金を支払わせた詐欺事件とは異なり、実際に事業は行われていましたがその運営・管理はずさんを極め、ついに経営が破綻。実際に飼育していた牛の頭数が、預託を受けた牛の頭数の7割程度しか充足されていない状態であったことも後に明きらかにされました。最終的に被害者は7万3千人規模となり被害総額は約4,200億円と史上最高額となりました。
顧客に100万円以上する高額な磁気治療器のオーナーとなって第三者へレンタルすれば年6%の利益が得られるとする「レンタルオーナー契約」方式で2万個以上販売したとされていますが、販売した内、レンタルされていた数は1割程度だったみたいです。創業者役員は債権者集会で「国民の健康のためがんばってきた。お客も良い思いをした。」と言い放ち話題になりました。前身となった会社はマルチ商法の「ジェッカーチェーン」。被害者は約7000人、被害総額は約2,400億円といわれています。
ダマされるにはワケがある
なぜ私たちは騙されないと思っていても騙されるのでしょうか。
年齢を問わず、人間の脳は複数のことを一緒に処理はできないので、情報量が許容範囲を超えると正常な判断が難しくなります。
また不安などのストレスフルな感情だけでなく、嬉しいことにも脳のメモリは使われるので、情報量過多により判断する脳の余裕がなくなります。
その上、年齢とともに脳のメモリは数を減らしていくため、高齢者は特に注意が必要です。
詐欺集団はこのような人間の心理や機能を組織ぐるみで操ります。
豊田商事事件では、人情に訴えたり何時間も粘って脅迫まがいの圧力をかけて、販売を行っていました。
ジャパンライフ事件では知人や有名人を使って信用を勝ち取り、温泉旅館に高齢者を集めたり、販売会場では健康食品などを無料で配りました。
振り込め詐欺では、高齢者が急に知らされる身内の大問題に、脳のメモリがパンク状態になるような話術が使われています。
オーナー商法で被害が大きくなるのはなぜ?
販売預託商法での被害が大きくなるのは、巧妙な手口が原因です。
最初の勧誘は少額での取引からで、元金保証などリスクなしで配当金や利子が得られると業者から説明されます。
半信半疑で始めてみると、配当金や利子がきちんと振り込まれるので、安心して購入額を増やしてしまうのです。
しかし購入者は振り込みがされている間は、詐欺にあっていることに気づけません。
苦情も出てこないため実態がつかめず、行政の対応も遅れがちでした。
ジャパンライフ事件では業務停止命令が4回も出されましたが、その間にも被害が拡大していきました。
法改正で何が変わったの?
法改正の目的は、原則禁止による被害の防止、罰則の強化、被害拡大の早期発見です。
次に法改正の要点をまとめておきます。
- 販売預託商法を原則として禁止
- 原則禁止の対象となる契約は民事的に無効(販売預託にかかる契約の締結または更新は禁止)
- 預託法の対象範囲を全ての物品などに対象を拡大
- 違反者は行政処分として重い罰則の適用
- クーリング・オフの通知について電磁的方法(電子メールの送付など)も使用可能
しかし今回の法改正では解決できていない課題もあるかもしれません。
例えば預託取引の適用は内閣府令で定める期間(3ヶ月)を超えるものとしていますが、悪徳業者にどう解釈されるかわかりません。
悪徳業者はいつでも法の抜け穴を探しだし、新たな詐欺手法を作ります。
新手の偽投資などの詐欺が出てこないとも限りません。
被害にあわないための注意点は?

今回の解説記事を書く発端となったのは、太陽光発電のソーラーパネルのリース預託にかかる行政処分の発表でした。
消費生活センターには他にも、「ゲームアプリの入ったUSBメモリー」とか「太陽光発電のソーラーパネル」や「カード決済端末機」などの相談が寄せられています。
実にさまざまな商品で販売預託商法が行われている現実があります。
『誰かに運用してもらうことで労せずして高額の配当金が得られる!』
そんな「必ず儲かる」情報なら、金持ちの資本家が成功させてしまっています。
私たち庶民にお鉢が回ってくることは無いでしょう。
「絶対損しないから(笑)」と持ちかけられたら「間違いなく損する(怒)」と肝に銘じましょう。
まとめ
ここまで販売預託商法の基本情報や法改正について解説しました。
販売預託商法は物品を使うために、普段から投資詐欺には警戒している人でも安心させてしまう作用があります。
豪華な証券を渡されたり、知人・有名人を介してしまうと、人間の心理は信用できる、信用したいという感覚が起こりやすくなるのです。
自分の感覚を信用しすぎず、家族も被害者にならないように、都合のいい儲け話には注意しましょう。
記者:ろこひた/編集:Akihisa.Y
出典:消費者庁/報道資料2022年度
2022年5月27日発表:訪問販売業者【サンパワージャパン合同会社、株式会社M&i及び株式会社A・LIKE】に対する行政処分について